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第三章 真意 後篇 43

「はい!」


「よし。じゃあ、いくぞ?」


義明はそう言うと、梨奈からやや間合いを取りながら右足を後ろへ1歩下げ、左拳を右耳の後ろから腰の前へと振り払いながら、右拳を右脇に引いた下段払いの構えを取った。


一方、梨奈は足を左右へ肩幅に開き、両拳を自然に下ろした八字立ちで構える。


そして、彼が梨奈の顔面目掛けて右上段追い突きを放つと、梨奈は左足を1歩後ろへ踏み出しながら、右腕で義明の右拳を右へ受け流し、さらに右手で彼の右手首を掴むと、右足を1歩前へ踏み込むと同時に、左中段肘打ちを義明の右脇腹に当て止めで食らわせた。


義明が先程説明した通りの動きを梨奈が見せると、義明は再び彼女から間合いを取りながら右足を1歩後ろへ下げ、下段払いの構えを取った。


「いいぞ、その調子だ。続けて何度かやってみよう。もう一度構えて」


「はい!」


すると、梨奈も再び八字立ちに構え、もう一度義明を相手に組手の稽古をし始めた。


青空の下、梨奈と義明は何度も同じ動作で組手を続け、やる気に満ちた様子でますます稽古に熱を入れている。


それは、光永の言う通り梨奈が元の生活へと戻っただけで無く、彼女と義明が一度失った信頼を取り戻し、さらに強固な師弟の絆で結ばれたことを感じさせる姿でもあった。
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第三章 真意 後篇 42

同時刻、首里・山川村――


一方、義明の自宅の庭では、梨奈がナイファンチと呼ばれる首里手の型を稽古していた。


縁側に腰掛ける義明が静かに見守る中、梨奈は体捌きや足捌きを呼吸と一致させ、動作に緩急を付けながら、左右の上段背甲打ちや肘打ち、下段払い、中段鉤突き、外受け、上段裏拳打ち、諸手突きなどを鋭く放っていく。


そして、梨奈は型の最終動作として、顔を右に向けたまま頭の高さで両手を交差させると、腰を落としたまま肩幅よりやや広めに開いていた両足を右足から引いて閉じ、両手を腰帯の高さに下ろして、顔を正面に向け直した。


すると、義明は縁側から立ち上がり、自然な立ち方に戻った梨奈の目の前までやって来た。


「よし。いいぞ、梨奈。かなり上手くなったな。いつも言ってるように、このナイファンチの型は首里手の基本中の基本だ。ティーはナイファンチに始まり、ナイファンチに終わると言っても過言じゃない。これからも、しっかり練習していくように。次は、今やったナイファンチの変手をしよう」


義明は実際に動作を交えながら、説明を続ける。


「まず最初に、右の背刀打ちから肘打ちまでの動作を応用した組手だ。相手が右の正拳上段突きを打ってきたら、背刀打ちと同じ体の使い方で外受け、次にそのまま相手の右手を掴んだら、1歩前に出ながら相手の脇腹に肘打ち。ここまでやってみよう。私が攻撃するから、型で覚えた体の動きを意識しながら練習するんだ。いいかい?」
 

第三章 真意 後篇 41

「まあ、逆を言えば民事紛争の和解あっせんも、当事者同士の話し合いが円滑に進んでくれるとは限らんからな。交渉が紛糾してしまえば、どれだけ当事者に裁量を認めたとしても、意味が無いということだ」


そう答えた光永は、手紙の内容に目を通しながらさらに言葉を続ける。


「……ふむ、なるほど。我々の理想とは少々違うようだが、一応解決に向けて前進はしているらしい。あの少女からの証言を元に我々が松浦達4人を発見した後、松浦商会と村上商会、少女の一家と長嶺殿が、弁護士を仲介して和解交渉を始めたそうだ。ただ、松浦商会と村上商会の間では、互いに損害賠償の金額を巡って交渉が難航……さらに、少女の一家と長嶺殿も、村上商会と少女の間に締結されている雇用契約の即刻解除を請求したそうだが、後任の用心棒が未決定であることを理由に村上がこれを拒否……最終的には、交渉決裂によって業を煮やした少女の一家と長嶺殿が警察に駆け込んだことで、一連の抗争が刑事事件として処理されることになったそうだ。現在、松浦や村上を含めた両商会の構成員達は、勾留されて取り調べを受けているらしい。罪の重さからしても、今後起訴されるのは確実のようだ」


光永がそう言うと、世璋は呆れた様子で再び口を開いた。


「なんだよ、結局お巡りの世話になってんのかよ……って言っても、あの海賊共は話し合いに応じるようなガラじゃ無さそうだし、とっとと裁判で有罪にされた方が良さそうだな。あの海賊共がムショにぶちこまれて、財産も根こそぎ没収されれば、松浦商会も村上商会も壊滅同然……これで、あの女流武術家や長嶺の旦那が報復されることも無いって訳だな」


すると、今度は守央がやや心配そうな様子で、光永に向かって疑問を呈した。


「ところで、長嶺さんの弟子はどうなったんですか? 村上商会の構成員が勾留されてるってことは、まさか彼女も……?」


「いや。あの少女は、警察の取り調べの中で一連の事件に関する情報を全て話した後、弁護士による情状酌量の請願や事情説明の介もあって、即日釈放されたそうだ。彼女が自首してきたことや未成年であること、真摯に反省を示していることや、保護者がいて再犯の可能性が低いことなどを理由に、違警罪即決の手続きが進められて、厳重注意を受けただけで済んだようだ。村上商会との雇用契約についても、勾留されている村上久の後を引き継いだ臨時代表と交渉し、合意までに数日程かかったものの無事解約出来たらしい」


「じゃあ、彼女はもう元の生活に……?」


「ああ。今頃はまた、ご両親や長嶺殿と共に、いつも通りの暮らしを送っているだろう」


光永はそう答えながら手紙を机の上に置くと、椅子に深く腰掛け直し、落ち着いた様子で背もたれに体を預けた。
 

第三章 真意 後篇 40

若い男はそう礼を言うと、世璋から白い湯飲み茶碗を受け取り、一気にさんぴん茶を飲み干してから、湯飲み茶碗を世璋に返した。


「あぁ~、旨い! ごちそうさまでした! ここに来るまで、もう喉がカラカラで……」


「休憩は、取れる内に取っておかないとな。お互い、無理せずやろうぜ?」


「はい、ありがとうございました! では、失礼致します!」


「おう!」


世璋は、走り去っていく若い男の後ろ姿を見送ると、部屋の壁沿いにある棚の上にチューカーと湯飲み茶碗を置き、雨戸を閉めた。


再び部屋の中に戻ると、彼は懐に仕舞い込んでいた封筒を取り出し、光永に差し出す。


「ほい、旦那。あんた宛てだってさ」


「ああ、すまんな」


光永がそう答えながら封筒を受け取ると、世璋は自分の机に座り直し、再び和罫紙に羽根ペンを走らせ始めた。


一方、光永は机の上のペン立てに羽根ペンを立て、封筒に書かれた差出人の名前に目を向けている。


「知り合いの弁護士からだ。恐らく、先日の松浦商会と村上商会の抗争について、何か進展があったのかもしれん」


光永がそう言いながら封筒を開け始めると、守央と世璋も手を止め、光永の方を振り向いた。


「確かこの前、光永さんからその弁護士に抗争の和解あっせんを依頼したんでしたよね?」


「本当は弁護士の判断でさっさと仲裁した方がいいんだろうけど、あいつらが弁護士の言うことなんて聞くとは思えねぇしな~……」


世璋がそうぼやくと、光永は封筒の中から幾重にも折り畳まれた手紙を取り出し、それを横長に広げて手紙の内容に目を向け始めた。
 

第三章 真意 後篇 39

2週間後、東村――


昼間、多くの人々が行き交う街の中心部では、1人の若い郵便局員の男性が通りを走り抜けていた。


若い男は郵便記号の付いた丸笠を頭に被り、襟付きの黒い上着と同色の半ズボン、脚絆から構成された制服に身を包み、蝦蟇口のズック鞄を肩から斜めに提げている。


額に汗を滲ませ、やや息を弾ませながらしばらく走り続けていると、若い男は光永の屋敷に到着し、門をくぐり抜けてその敷地内へと足を踏み入れた。


そして、若い男は歩きながらズック鞄を開け、中から1枚の白い長形封筒を取り出すと、離れ家の前で立ち止まった。


「ごめんくださーい! 郵便でーす!」


すると、離れ家の中でそれぞれ机に座り、和罫紙に羽根ペンを走らせていた光永、守央、世璋の3人は、若い男の呼び掛けに気づいた。


「ん?」


「新しい依頼でも来たか?」


「どれ、俺が見てきてやるよ」


世璋はそう言って椅子から立ち上がると、縁側の雨戸を開けて若い男と応対した。


「おう、ご苦労さん」


「お忙しいところ、失礼致します。光永三郎(さぶろう)様宛てに、お便りが届いております。どうぞ」


「いつもありがとな。確かに受け取ったぜ。ああ、そうだ。ちょっと、待っててくれ」


世璋は若い男から封筒を受け取り、それを懐に仕舞い込むと、雨戸を開け放したまま一度離れ家の奥へ引っ込む。


そして、チューカーと呼ばれる陶製の急須と白い湯飲み茶碗を手にして、再び若い男の目の前にやって来ると、世璋はチューカーから冷たいさんぴん茶を湯飲み茶碗に注いだ。


「この時期は暑くて死にそうになるからよ。小休止がてらに、これでも飲んでってくれ」


「あ、ありがとうございます! いただきます!」
 
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